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2011年10月11日

彗星発見の条件

 毎年秋がやって来て10月11日が訪れると俄かに緊張で体が引き締まる思いです。生まれて初めて彗星を発見したのが今日だったからです。良いお天気でした。一日中茫然として青空を眺め、夢のような気持でした。
 しかしあれから丁度50年、なんと半世紀になります!
 「いま世界中で誰も知らない星が、この頭上に輝いているのだ。発見は本物だろうか?」と半信半疑の体で、心は渦巻き夢のような気持で一日を過ごしたのでした。
 夜明け前の4時50分でした。しし座のベータ星の近くに視野が差し掛かったとき、突然7等級の朦朧とした光体がよぎりました。既に薄明が始まっていました。
「光度は7等、視直径は僅かに2'、彗星独特の尾はなし。非常に小さな球状星団の様です」。
 口径僅かに88mm、15xのコメットシーカーですから、眼が鋭くないと見逃してしまいます。現に時を同じくして、私の高知市から西に15km、土佐市に住む池幸一(いけ こういち)氏が、私の譲った10cm25xの反射望遠鏡で同じしし座を捜索していましたが、見事に見逃していました。
 この微弱な彗星の発見を可能にしたのは88mmの対物レンズの性能でした。滋賀県の苗村敬夫(なむら たかお)氏の手磨きになるレンズは、抜群の切れ味で、その後このような優秀な対物レンズにお眼にかかったことはありません。これが苗村氏の記念すべき第一作と言うから驚きです。苗村さんは最近その努力が実って『現代の名工』に選ばれました。
 彗星の発見は星像の尖鋭なことが何より大切です。シャープな星影は細かな彗星像を検出するばかりか、覗く人の心までシャープにして、捜索に熱中さすのです。この時の私の成功はこの小さなレンズのお陰だと思っています。
 私にとって記念すべき第一の発見は、その後彗星の地球への急接近と言うことになり、日頃研鑽した軌道決定の腕の見せ所となったのです。「発見した彗星の軌道計算を自分でやってみたい」というのが私の夢でもありました。