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2006年10月29日

去り行くレビー彗星

 10月下旬と言うのにこの暑さはどうした事でしょうか。昼間は太陽が南にやや傾いた関係で強い日差しが部屋に差し込んで今でも毎日冷房をやっています。そして今日芸西の天文台に来るのにも、車の中で冷房をつけていました。夜のドームの中も25℃くらいで、朝まで半そで姿での観測です。いま牡牛座の流星群が活動しているのでしょうか、時折速い火球が長い尾を引いて飛びました。
 60cm反射望遠鏡は牡牛座附近の衝の位置を長時間かけて掃天しています。これとは別にスライドルーフの第3の小屋では彗星の捜索です。その脇では35mmカメラを使っての流星のパトロールです。観測はいつもこのように二刀流三刀流になります。その間30mほどはなれた2つのドームを行き来すること数十回、可也の運動です。
 経緯台による捜索は最近マゼラン社から入手した(最近と言っても3年ほど前)ナビのおかげで位置の設定が随分と楽になりました。赤道儀ならともかくコメットシーカーは経緯台ですから、今見ている天体の赤経、赤緯がわかりません。昔ニコンの12cm双眼鏡を使っていた頃は方位環と高度環による地平座標から天体の赤道座標に換算して目的の天体の位置を求めていました。この方法ですとスケッチ程度の精度は十分にあり、安心できますが、遅いことが難でした。いまのナビゲーターは実に小さいながら、捜索している位置を次々に表示して行きます。最初の2つの恒星による設定が巧く行けば10分角以内の精度で目的星の位置を表してくれますので、さらに精密な観測が必要なら隣の広角の赤道儀に誘導して写真をとれば完璧です。21cmカメラの写野は5度ありますから、確実に捕らえます。要するに怪しい天体を捕らえた場合、その概略位置を知ることが大変でしかも大事なのです。無論次々に入ってくる星団や星雲の星図上でもチェックできる精度を持っています。昔大変だったことが、いまはエレクトロ技術の発展によって可能になりました。然し便利なものが出来たからと言って発見が増すわけではありません。やはり究極は努力です。馬力です。そして忍耐です。
 こうして延々7時間。朝になってレビー彗星P/2006 T1に60cmを向けました。ひところより暗くコマは小さく貧弱になって今にも崩壊しそうなイメージです。全光度は12.5等で尾は見られず細長いコマの中に前後2つの核があるようにみえました。同じ方向に見えているC/2006 L1の丸い小さなしかっりとしたコマと対象的でした。間もなく眼界から去ります。もう一夜撮影して確りした位置を測定してみましよう。重力外の作用で軌道要素と微妙にずれてきたような気がしますが、これは計算者の仕事の世界です。
 観測を終わって、山を降りる時に見た林の間のオリオンと大犬の輝きの凄さは忘れられません。歩道にしばし立ち止まってうっとりとして眺めていました。蒼い大きなシリウスがまるで線香花火の最後の球のようにぶら下がって微動だにしませんので、よほど大気は安定していたのでしょう。
 ああ、星を愛する人にとっての最高の時間でした。