« 闇に光る目 | メイン | まだらの紐 »

黒い魔物

 今日は恒例の「夏の天文教室」がここ芸西村の天文台で行われました。暑い中40名近い参加者があり、つつがなく観測会が開かれました。特筆すべきは芸西で発見し高知新聞社が一般から星の名前を募集して決まった「おるき」の星の作詞作曲の試聴版が始めてここで音になってみんなに聞いてもらいました。いずれ8月にCDが高知新聞社の「おるき係り」から発売されるそうですが、今日集まった人たちは幸運にも一足先にこの音楽を聞くことが出来たわけです。
 そして同時に40年前キューバの人によって作曲され、まだ演奏されていなかった「Ikeya-Seki」の曲が披露されました。
 夜の観測では5日の月や木星が大変良く見えました。水がめ座の流星群もいくつか見られました。

 このように大勢集まってがやがややっているときには動物たちも恐れてなかなか出てこないようで、流石今夜は「森の主」の光る目玉もありません。観測会の晩にはいつも安心して作業が行えるのです。それにしても”闇に光る眼”の正体は何でしょうか? そして午前3時になると天文台の窓に映る黒い影の正体はなんだろうか?その疑問は長いこと解けず、恐怖は募るばかりでした。然しそれから間も無く午前3時の影は映らなくなり、日と共に月と共に黒い影のことは私の脳裡から忘れ去られようとしていましたある日のことです。

 訪れたその年の秋もようやく深まろうとしていた深夜のことでした。例によって私は60cm鏡を操作して小惑星の探索を行っていたのですが、突然深夜の静寂な空気を引き裂くような悲鳴が起こりました。どうやらそれはドームのすぐ上の例の”けものみち”附近で起こったようですが、得体の知れない動物のまるで断末魔の叫びのような物凄い声に「これはただ事ではない!」と私は咄嗟に怖い事も忘れて懐中電灯を片手で掴むとドアを開け、悲鳴のする方に一目散に駆け上がりました。それはまさしく”けものみち”の上でした。強力なライトに映し出された光景は、世にも信じられぬ恐ろしい光景でした。泣き叫ぶ動物の正体は1匹の子狸でした。最初は黒くて良く分らなかったのですが1頭の黒い大きな怪物が狸の腰のあたりにがっぷりと噛み付いているのです。なおも狸は盛んに悲鳴をあげつづけています。然し黒い怪物も流石突然やって来た第三者を見て恐れを抱いたでしょう。狸を食うのを諦めてずたずたと重い足取りでけものみちの奥のほうに消え去ったのです。
 「あの黒い動物は一体なんだったろう?」犬や猫の類ではない。鹿でも猪でも絶対にない....。しからば熊????ここまで考えて私は慄然としました。「天文台のある芸西の里に熊がでた。」そのような事はあろうはずもないのです。四国には高知県と徳島県の県境に近の深い山郷に確かに10頭くらいの「つきのわ熊」が居る事は確認されています。その一頭がえさを求めて麓まで降りてきたのでしょうか?つきのわ熊で無ければアナグマだったのでしょうか。もっともこの30年間に熊らしきものを見たことは他にありませんが、日本カモシカ(3~4頭の群れ)や狐、猪なんかは時々見かけています。然し夢かまぼろしか、あの黒いいかにも獰猛そうな熊そっくりの動物はあの時が最初でした。私が「森の主」と呼んでいた目の光る動物はこれだったのでしょうか。あの日から10年の歳月が流れましたが、疑問は日とともに月と共に深まるばかりです。

 さて話は飛びますが、かれこれ30年も昔のことでしょうか。お隣の徳島県祖谷(いや)の山中で野良仕事をしていた1人の男が妙なものを見ました。祖谷村は昔、平家の落人がここに隠れて生活したという大変に山深い場所で、今でも平家の子孫らしいみやびやかな人(女性)に出会ってはっとするときがあります。
 それは高さが8mほどの木の梢に着物の黒い帯びのようなものが引っかかっていて、不思議に思ったきこりは暫く眺めていました。ところが次の瞬間、その黒いまだらの帯はスルスルと動き出したと言うのです。なんとそれは長さが5メートルを越すような大蛇だったのです。「うやー、ヘビがでた!」と男は一目散に山を駆け下りました。
 この目撃談は当時の「高知新聞」にも発表されました。どうやら錦へびのようです。村に帰って男は、その事を報告しましたが「まさか四国に大蛇がいるはずは無い、それは何かの錯覚でしよう」と言ってなかなか信用してもらえなかったそうです。しかし昔そのような大蛇を見たと言う人も居て、村の人たちはその後その真実を立証しようと、それから山に作業に出る時は必ずカメラを持って仕事をしたそうです。然しその事件も、その後杳として噂は立ち消えてしまいました。

 祖谷村の大蛇も芸西村の熊もこのまま永久に姿を消してしまうのでしょうか。

 さて次は身の毛もよだつような天文台での蛇の怪談「まだらの紐」です。

About

2006年07月30日 23:00に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「闇に光る目」です。

次の投稿は「まだらの紐」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。