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天文台の怪談

 夏になると怪談がはびこります。夏祭りや見世物等の催しに行くと昔は大概”お化け屋敷”というのがあって、子供の頃にはこわごわ入ったものですが、今はそのようなものは殆ど見られなくなりました。小学生の頃の夏、学校で合宿して肝試しという授業?がありました。深夜宿直の部屋から二人一組になって、懐中電灯を持って一階と二階の廊下を一回りして帰ってくるという催しです。無論要所要所に仕掛けがしてあって、先生が幽霊になって出没するのですが、何も出ない長い廊下が却って怖かったりして、いまでもあの時の戦慄を思い出します。
 芸西の天文台も一種の肝試しの場所です。山の一番上の駐車場のところから暗く、ドームまでの50mほどの山道が怖いのです。右手は谷で、底の方からケダモノの鳴き声がします。左手は鬱蒼とした林です。そこに墓場の白い墓石が無いだけでも助かっています。ドームの中に隠れるとホッとするのですが、暗闇のドームのなかで観測をしていても外の様子が気になります。時々足音がして得たいの知れない鳴き声が響きます。あたりは死んだような静寂ですが、よく耳を澄ますと谷の底の人工の池に滴り落ちる水の音がチロチロと聞こえます。昔ここに人が飛び込んだとか、、、、。


天文台の下の底なし池
天文台の怪談はここから発生する

 ところが午前3時になるときまって妙な変化が起こります。ドームの入り口のドアは不透明のガラスで外の深夜の空気がボーッと幽かに写って光っているのですが、怖いものですから、観測中も私は何度もその白い光るガラス戸に注意するのです。何者かの影が映るのではないか、と言う恐怖です。そしたら、決まって午前3時になると黒い影が映るのです。それはまるで小さなクリスマスツリーのような頭の尖った形をした黒い影で、何十秒かでスーと消えて行くのです。(一体この時刻に何者だろう?)私は怖いので決してドアをあけません。やがて長い夜が終わり黎明の白い光にドームが包まれ始めた頃、密かにドームを抜け出して急ぎ足に山を下ります。車のなかに入りドアをピシャと閉めてから初めてホッとした安堵に支配されます。
 天文台はこうした一種の肝試しの場所でもあるのですが、それからとんでもない恐怖が襲ってきたのは間もなくのことでした。私はそれを決して現実のものとは思いたくない。全く信じられぬ出来事でした。 その黒い影は人ではない、、、!???

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2006年07月11日 23:00に投稿されたエントリーのページです。

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