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コメットシーカーの怪(6)

 おかしい?「関やん」なんて私を親しげに呼ぶのは、小学の時以来いないはずだがと思って声のした方を見ると、そこには相変わらず古ぼけた戦斗帽を冠り、汚れた作業服を着た男がテントの中からじっと私を見つめているのです。その時私は「ハッ」としました。そして背筋を冷たい物がドッと走る思いでした。その男は、あの小石木山の火事の現場にいた男とそっくりだったのです。そして彼の次の言葉が更に大きな衝撃となって降りかかって来たのです。
 「関君、しばらくだったね。忘れたかい?中学の時ほら、あんたと机を並べていたLだよ。」
 「えっ、君はあの時のL君?!」
 私はあっけに取られてじっと彼の顔を見つめました。日に焼けて年齢よりは相当老けて見えますが、それは確かに古いクラスメートのL君であり、同時に火事場の男のイメージを連想させるのです。あの時どっかで見た顔とはこんな事だったのか。私はしばし呆然として、彼の言葉を聞くだけでした。彼は勉強も良くしましたが、学校では悪いことをしてほたえる(騒ぐ)仲間でした。中学校2年生のとき悪さがたたって退学となりましたが、その後予科練を志願し、乙種飛行予科練習生として入隊し、昭和20年霞ガ浦で終戦を迎えたそうです。
 「あの時はひどい空爆にあってね。ホラこの足。」
 と言って自分の左足を指差しました。なんと彼は義足をはめ、松葉杖をついていたのです。
 今は田舎で農作物を作って生活しているという彼から、少しばかりの野菜を買って帰る私の頭の中は、もつれた糸のように混乱していました。"山の不審火"スケールの大きい"わりことし"だった彼ならやりそうな事だ。しかし足の悪い彼が、まるで悪魔の跳梁するが如く捜査陣を煙に巻いて逃げ回ることができるだろうか?
 いやそれは違う。きっと他人の空似で別人だ。今は真面目で温厚な彼が犯人であるはずがない。(L君、少しでも疑って悪かったね。)と懺悔でするような気持ちで何年かが経ったある日、地方紙の記事を見ていた私は、ある小さな記事を見つけてハッとしました。
 (つづく)

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2004年08月01日 23:00に投稿されたエントリーのページです。

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