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コメットシーカーの怪(5)

 それから10年が経過しました。小石木山の怪火のことは、何時とはなしに人びとの心の中から消えていきました。しかし私の心の中には、その不審火は何時消えるともなくチョロチョロと燃え続け、日と共に月とともにその疑念は深まるばかりでした。
 燃え盛る赤い炎に照らされ、不敵な笑顔さえ浮かべて立ち去って行った犯人。それは一体何処の何者なのか?何の目的の放火なのか。単なる世間への挑戦なのか?
 家から小石木山の頂上まで2Km、200倍の望遠鏡で見たとすると、なんと犯人は10mの距離から顔を見られていた事になるのです。まさか犯人も、この私に遠くから顔をはっきりと見られていたとは、夢にも思っていますまい。
 蒼い戦斗帽を冠り労働服を着た男の姿は、「どっかで見た顔だ。」と思いましたが、その時はどうしても思い出せませんでした。ところが事件は意外なところで急展開しました。
 それは夏も近いある晩春の午後でした。その日は日曜日で、私は例によって高知城下にくり広がる市場の見物に出かけました。八百屋あり、海産物あり、植木あり、骨董品あり、犬猫ありのさまざまな見世物(?)を、ただ歩いて見て回るだけでも結構楽しいし、時間もかかります。こうした”市ぶら”のなかに、ふと意外な人に遭ったり、珍しい物品を見たりします。それは漬物屋のテントの前を人にもまれながら歩いていた時でした。どっかで「オーイ関!」と何者かが呼ぶのです。「一体誰だろう?私を呼び捨てにする人間はよほど親しい人しかいないのだが....。」と思いながらあたりを見回したのですが、知った人なんか誰もいません。だまって行き過ぎようとすると、またしても「関やん、待ちたまえ。わっしだよ。」と何者かが呼ぶのです。その声にはどこかで聞き覚えがありました。しかし私の知っている人は誰もいず、テントの中には一人の戦斗帽を冠った農家らしい日焼けした中年の男が、じっと私の顔を見詰めているのでした。
 (つづく)

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2004年07月29日 23:00に投稿されたエントリーのページです。

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