事実、その後スミソニアンのマースデン博士の発表した改良軌道によれば、彗星が近日点を通過するのは1997年4月1日。その頃地球から約1天文単位(1億5千万キロ)の距離にあるが、明るさは-2等(木星並みの明るさ)になると発表したのである。ちなみに1997年3月末現在でホウキ星は-1等に達し、人口30万の明るい市街の空に悠々と輝くのはさすが大彗星である。 ヘール・ボップ彗星は多少の明るさの消長を見せながら太陽に迫ってきた。1996年の夏には夕方の西南の空で好期を迎えたが、明るさは予報より1〜2等暗い5〜6等で、双眼鏡では何とか見えたものの、同年秋に、夕陽に接近して見えなくなるまで1回も肉眼で見えなかった。「果たして史上最大のホウキ星になるだろうか?」と、前人気の高い彗星だけに私たちは心配した。 過去、大彗星になるといわれながら期待を裏切った彗星がいくらでもあるのである。ちょうどその頃、タブール彗星というのが飛び入りで現れ北天で分裂消滅した。この方は幽かに肉眼に映した。 大体、大彗星がやってくると前々から評判の高い時には必ずと言って良いほど飛び入りのホウキ星が現れる。そしてあたかも「私の方がずっと明るく美しいわよ!」といわんばかりに”暁の女王”は夜空に絢爛たる光を放って翔け抜けるのである。1910年のハレー彗星のときには、その数ヶ月前に1910年A彗星というのが忽然と出現し昼間見え大騒ぎになっている。今回のヘール・ボップ彗星の場合も、百武彗星にして同じことが言えるのである。 ヘール・ボップ彗星は昨年の百武彗星を越えられるであろうか?私は1970年4月に出現し多くの人を驚かせた”ベネット彗星”クラスではないかと思うがいかがなものであろうか。ベネット彗星は最大マイナス1等級に輝き極めて濃いダストの尾が10度あまり見られた。ある朝なんか曇っていて「今日は駄目かな」とあきらめて庭に立ってみたら、なんと薄雲をつらぬいて煌々と輝いていたのである。今回の彗星は過去の3大彗星(池谷・関、ベネット、それにウェスト彗星)等に比べて、やや尾が短く淡いのは残念である。そういえば昨年の百武彗星は、尾が大変長かったが細く薄かったことを思い出す。初期は長く青いガスの尾であったが、太陽に近づいた後期にはダストをどっと吹き出して太い赤っぽい尾となった。
|