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思い出の彗星

テンペル第2彗星
10P/Tempel

 10P/Tempelは今から遠く1873年にミラノのコメットハンター、テンペルによって発見された周期彗星である。約5年の周期をもち、接近ごとに明るくなって一般の天文ファンにも親しまれている。最近では2010年7月に近日点を通って9等〜10等星として明るく輝いた。
 この彗星で特筆すべきは1920年の回帰の時、京都大学の百済(くだら)氏が再発見(検出)したことである。百済氏は天体軌道論の大家で、前回出現の時からの摂動を計算し、果たして自分の予報が正しいかどうか確かめるために発見したという。そして次の1925年の回帰の時にも再発見したが、氏の独特の謙遜から、誰にも言わず発表しなかった、という逸話が残されている。確かに、この年の百済氏の検出はマースデンの「彗星カタログ」にも載っていない。同僚の山本一清氏のみが知る事実であった。
 百済氏は一説によると大阪の御堂筋に自宅があって、その庭で観測、発見したと言う。テンペル第2彗星を検出したのは10.5等の明るさであった。この光度はいま、空の暗い場所でも眼視的には決して楽には観測できるものではない。繁華な大阪のど真ん中での出来事である。更に驚くべきは、神田茂氏(元、東京天文台の彗星研究の大家)によると、百済氏が検出に使用した、自作の屈折鏡は口径10〜15cm程度のシングル玉であったという。
 彗星のボーッと青く美しく拡散したコマを見ているとそうした遠い日の出来事が、つい昨日のように思い出される。


[テンペル彗星の写真]

テンペル第2彗星
10P/Tempel

2010年6月17日 02時56分(J.S.T)
芸西天文学習館 70cm反射望遠鏡 + Nikon D700
撮影:関勉
Copyright (C) 2010 芸西天文学習館(Geisei Observatory)



Copyright (C) 2010 Tsutomu Seki. (関勉)