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● 8月27日 ● 8月13日 それは1996年の晩秋の頃でした。朝刊の片隅に「ハッ」とする記事を見つけました。それはかのL君の死亡記事でした。私を驚かせたのは、死亡の告知だけではなく、その住所が高知市小石木町になっていたからです。(やはり彼は火事の現場の近くに住んでいたのだ!)しかしそれはもう考えない事にしよう。今はとにかく彼の冥福をお祈りすることだ。そして、彼は近くの山に農作物を作っていて、いつもそのでき具合を見に通っていたのだ。そして、たまたま起こった山火事を消そうと必死に努力していたにちがいない。「どうかL君よ、安らかに眠りたまえ」。 さて年も明けてさまざまな事件を見てきた私のコメットシーカーは、折から接近中のヘール・ボップ彗星を迎えることになりました。アメリカの2人のアマチュア天文家によって発見されたこの彗星は、近来の大物彗星として、世界中の天文愛好家達に迎えられました。1997年の早春3月、私は小さなコメットシーカーとカメラをリュックに入れて南の高見山に登りました。昔あの不審火の盛んに起こった小石木山とすぐ隣合わせの峰続きの山で、怪しい火事はこの山でも盛んに起りました。 北の眼下に高知市の見事な夜景を見ながら急な石畳を一歩一歩とゆっくり上っていると、妙な足音が付いて来るのに気が付きました。足を止めて耳をすましましたが別段何も聞こえません。歩いていると「カッツン、カッツン」とまるで松葉杖を突くような奇妙な音が何時までもいつまでもついて来るのです。(そう言えばL君は松葉杖をついていたっけ)その様な余計な事を思いながら山の小さな頂上につきました。おりからヘール・ボップ彗星はまるで海のような夜景の広がる北の山脈の上に堂々の姿を見せています。私は独り、恐怖も忘れて恍惚と見惚れていました。 この時です、背中の後ろから、「なかなか綺麗じやのう!」と野太い声が響きました。「ハッ」として振り返ると、そこには古い戦斗帽を冠り杖を突いた男がヌーと立っています。(オオーッ、L君!?)私は驚きと恐怖で呆然と相手を見つめました。 しかしそれは違っていました。L君とは似ても似つかぬ顔をした老人でした。男は近くの老人ホームに入っている人で、散歩の途中との事でした。筆山の「老人ホーム」も最近火事が多く、朝倉に引っ越す事になったとの事でした。ヘール・ボップ彗星のことを教えると、なんでも子供の頃夏祭りがあって、相撲大会を見ていたら太いホウキ星が頭の上にドッカリと光っていた。大正の末頃とかでしたが、何彗星だったのか詳しいことはわかりません。、昔はお年寄りからよく面白い星のお話しを聞いたものです。 (つづく) |
自宅から見た高見山 中央右が小石木山 高見山から見た高知市街とヘール・ボップ彗星 1997年3月1日 19時30分から20秒間露出 PENTAX 6X7 105mm F2.4 |
● 8月10日 おかしい?「関やん」なんて私を親しげに呼ぶのは、小学の時以来いないはずだがと思って声のした方を見ると、そこには相変わらず古ぼけた戦斗帽を冠り、汚れた作業服を着た男がテントの中からじっと私を見つめているのです。その時私は「ハッ」としました。そして背筋を冷たい物がドッと走る思いでした。その男は、あの小石木山の火事の現場にいた男とそっくりだったのです。そして彼の次の言葉が更に大きな衝撃となって降りかかって来たのです。 「関君、しばらくだったね。忘れたかい?中学の時ほら、あんたと机を並べていたLだよ。」 「えっ、君はあの時のL君?!」 私はあっけに取られてじっと彼の顔を見つめました。日に焼けて年齢よりは相当老けて見えますが、それは確かに古いクラスメートのL君であり、同時に火事場の男のイメージを連想させるのです。あの時どっかで見た顔とはこんな事だったのか。私はしばし呆然として、彼の言葉を聞くだけでした。彼は勉強も良くしましたが、学校では悪いことをしてほたえる(騒ぐ)仲間でした。中学校2年生のとき悪さがたたって退学となりましたが、その後予科練を志願し、乙種飛行予科練習生として入隊し、昭和20年霞ガ浦で終戦を迎えたそうです。 「あの時はひどい空爆にあってね。ホラこの足。」 と言って自分の左足を指差しました。なんと彼は義足をはめ、松葉杖をついていたのです。 今は田舎で農作物を作って生活しているという彼から、少しばかりの野菜を買って帰る私の頭の中は、もつれた糸のように混乱していました。"山の不審火"スケールの大きい"わりことし"だった彼ならやりそうな事だ。しかし足の悪い彼が、まるで悪魔の跳梁するが如く捜査陣を煙に巻いて逃げ回ることができるだろうか? いやそれは違う。きっと他人の空似で別人だ。今は真面目で温厚な彼が犯人であるはずがない。(L君、少しでも疑って悪かったね。)と懺悔でするような気持ちで何年かが経ったある日、地方紙の記事を見ていた私は、ある小さな記事を見つけてハッとしました。 (つづく) |
Copyright (C) 2004 Tsutomu Seki. (関勉)