国立天文台 メールニュース No.214 (2020年3月19日発行)
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■大型低温重力波望遠鏡KAGRAが観測を開始
■双曲線軌道を持つ天体の起源は
■相馬充助教が「ホーマー・ダボール賞」を受賞
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■大型低温重力波望遠鏡KAGRAが観測を開始
大型低温重力波望遠鏡KAGRA (かぐら) が観測を開始しました。
KAGRAは、東京大学宇宙線研究所、高エネルギー加速器研究機構、自然科学
研究機構 国立天文台を共同ホスト機関とした協力体制の下、国内外の研究機
関・大学の研究者と共同で、2010年より岐阜県飛騨市に建設が進められてきま
した。2019年秋の完成後は、感度を高めるための調整や試験運転が続けられ、
2020年2月25日、いよいよ重力波観測のための連続運転が開始されました。
KAGRAは、米国のLIGO (ライゴ) 2台と欧州のVirgo (バーゴ) に続く世界4台
目、アジアでは初めての重力波望遠鏡です。
重力波によって引き起こされるわずかな空間の伸び縮みを検出するため、重
力波以外の原因による振動をいかに抑えるかが、検出感度を向上させる鍵とな
ります。しっかりした岩盤の地下に設置して地面振動の影響を軽減するだけで
なく、レーザー干渉計に用いる鏡をマイナス253度にまで冷却して熱振動によ
る影響を抑えることが、他の重力波望遠鏡にはないKAGRAの大きな特徴です。
研究代表者である東京大学宇宙線研究所長の梶田隆章 (かじたたかあき)
教授は、「2010年のプロジェクト開始後から研究チーム一丸となって準備をし
てきましたが、ようやく重力波観測を始めることができました。このプロジェ
クトを支援していただいた多くの方々のおかげであり、改めてこれまでのご支
援に感謝いたします。感度はまだまだですが、引き続き感度向上の努力を続け
てまいります」と述べています。
▽大型低温重力波望遠鏡KAGRA観測開始
https://www.nao.ac.jp/news/topics/2020/20200225-kagra.html
▽大型低温重力波望遠鏡KAGRAが完成、重力波望遠鏡3者による研究協定を締結
https://www.nao.ac.jp/news/topics/2019/20191004-kagra.html
■双曲線軌道を持つ天体の起源は
2017年に発見されたオウムアムア、2019年に発見されたボリソフ彗星 (すい
せい) は、いずれも、大きな速度と極端な双曲線軌道を持つことから、太陽系
の外から飛来した天体ではないかと言われています。しかしその他に、太陽か
ら1000天文単位〜10万天文単位の距離にある「オールトの雲」の中の小天体
が、太陽系の外にある他の天体の影響で加速された可能性も考えられています。
国立天文台の研究チームが、天体の軌道の進化と分布に着目した研究を行っ
た結果、これらは太陽系の外から飛来した天体 (恒星間天体) である可能性が
高いことが分かりました。
研究チームは、恒星間天体が太陽系に突入してくる場合と、オールトの雲の
中の天体が太陽系外の他の天体の重力で加速される場合とで、それぞれどの程
度の確率でどういった軌道になるかを調べました。その結果、後者の場合は、
木星の数倍もの質量を持つ他の天体がオールトの雲を最近通過した場合を除き、
天体が異常に大きな速度を得ることは難しいことが分かりました。仮にそう
いった大きな天体の通過があれば、近年精力的に行われているサーベイ観測で
検出されているはずですが、実際には検出されていません。つまり、オウムア
ムアやボリソフ彗星のような天体は、太陽系外から飛来した恒星間天体である
可能性が高いと言えるのです。
ただし、オールトの雲を通過した天体が検出できないほど暗いとすれば、後
者の可能性は否定できません。この場合だとしても、オールトの雲の中の天体
の軌道に影響を及ぼすような天体について、その分布や数に対する情報が得ら
れます。
これからも極端な双曲線軌道を持つ天体の発見が期待されます。今後、恒星
間天体の質量や明るさ、速度分布についての理論研究が進むと、太陽系の内と
外の天体の関係について、より詳しい議論ができるようになるでしょう。
▽双曲線軌道を描く天体の起源
―恒星間天体か?それともオールトの雲からか?―
https://www.nao.ac.jp/news/science/2020/20200117-rise.html
▽双曲線軌道天体の起源 - 恒星間天体?オールトの雲の彗星?
https://www.miz.nao.ac.jp/rise/c/reading/paper-detail-20200117
■相馬充助教が「ホーマー・ダボール賞」を受賞
国立天文台 科学研究部の相馬充 (そうまみつる) 助教が、国際掩蔽
(えんぺい) 観測者協会 (International Occultation Timing Association、
IOTA) による、2019年「ホーマー・ダボール賞」を受賞しました。
相馬助教は、月による恒星の掩蔽 (注) (星食) を解析して、恒星の座標系
(恒星基準座標系と力学基準座標系) の系統誤差を求める研究を続けており、
その詳細な解析のために月縁地形の決定も行っています。また、小惑星や惑星
の衛星による恒星の掩蔽や、衛星相互の掩蔽現象の予報計算も行っています。
とくに、小惑星による恒星の掩蔽が地球上のどの地域で観測されるかの予報図
の作成は、世界的に知られる業績の一つです。
今回の表彰は、このような予報図の作成や、掩蔽観測の情報の収集・解析と
いった業績が評価されたものです。相馬助教は長くIOTAの役員を務めてきたこ
とから、慣例ではIOTAによる表彰の対象ではありませんでしたが、今回はその
慣例の枠を超えた受賞者の選定になったとのことです。
この受賞者は、2019年9月に米国で開催されたIOTA年会にて発表されました。
注:観測者から見て、手前にある天体が遠方にある天体を隠す現象の総称。
月が恒星を隠すことをとくに星食 (せいしょく) と呼ぶ。
▽The Homer F. DaBoll Award of the International Occultation Timing
Association
2018/2019 Award Recipients Regional Coordinators for Lunar Occultations
http://www.asteroidoccultations.com/observations/Awards/LunarCoordinators.htm
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発 行:国立天文台 天文情報センター 広報室
発行日:2020年3月19日