記事タイトル:1661年の池谷・張彗星、日本での観測記録を発見 

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お名前: 佐藤 裕久   
            国立天文台・天文ニュース (548)

               1661年の池谷・張彗星、日本での観測記録を発見

 今年2月に発見され、久しぶりに肉眼でも見られる明るい彗星となった池谷
・張彗星(C/2002 C1)(天文ニュース523)は、その後の軌道の研究から、1661年
に出現した彗星(C/1661 C1)の再来であることが確実となりました。しかし、
当時の観測記録で見つかっていたのはヨーロッパのものだけで(天文ニュース
528)、日本での記録は知られていませんでした。
 ところが、民間の天文学研究者である渡辺美和(わたなべよしかず、日本流
星研究会)は、過去に調査した近世の天文記録の中で、和歌山と岐阜に残る史
料に、1661c1彗星と思われる記録を見いだしました。和歌山の「紀州石橋家日
乗」(和歌山大学紀州経済文化研究所編、清文堂出版)には「万治四年自正月十
日比当寅卯之方有星如左自寅剋至卯初剋李蹟別録云此星名虎尾星(後略)」とあ
り、「万治四年正月十日(1661年2月9日)ころから、寅卯(東北東)の方角に
左に示すような星が寅の刻(1月なら午前4時頃)から卯の刻(同6時頃)のはじ
めにかけて見られた。李蹟別録にいうところの虎尾星という名である。(後略)」
と解釈されます。虎尾とは、恐らく彗星の尾の様子から名付けられたものでしょ
う。この記録には、簡略的に彗星の位置を示す図も含まれている上、出現時期
や方向がヨーロッパの記録とほとんど一致しており、1661c1彗星と見なして間
違いないでしょう。また、岐阜の記録「年代記録」(白鳥町教育委員会編、「白
鳥町史史料編」、岐阜県郡上郡白鳥町発行)では、見られた時期についての記述
からは、1661c1彗星と見なすにはやや難点がありますが、この記録が連日のも
のではないことを考慮すると、時期については記録者の思違いである可能性も
考えられます。両記録の内容からは記録者が実際にこの彗星を観察したかどう
かは分かりにくいのですが、いずれの記録でも、この年に見られた彗星を「虎
尾」と呼んでいることから、この彗星が広く人々の噂となっていたのかもしれ
ません。
 渡部潤一(わたなべじゅんいち)国立天文台助教授は「1661年にも明るい彗
星だったので、日本でも観察記録はどこかに残っていると思っていた。今回、
日本のアマチュア天文家によって彗星そのものが発見され、なおかつ同じアマ
チュア研究者によって観測記録が発掘されたことは、日本のアマチュア天文家
のレベルの高さを示すものとして感慨深い」と述べています。
 この彗星は次第に遠ざかりながら、まだ双眼鏡で観測できる6等台の明るさを
保ちつつ、多くの天文ファンの目を楽しませてくれています。

            2002年5月6日         国立天文台・広報普及室
[2002年5月7日 20時16分3秒]

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