記事タイトル:M78星雲の近くに新しい星雲が出現 

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お名前: 佐藤 裕久   
VSOLJ ニュース (121)

         M78星雲の近くに新しい星雲が出現

                                         著者  :加藤太一(京大理)
                                         連絡先:tkato@kusastro.kyoto-u.ac.jp

 M78星雲はオリオン座にある有名な星雲ですが、この近傍の暗黒星雲中に驚く
べき「新変光星雲」が出現しました。発見は Jay McNeil というアメリカのアマチ
ュアによるもので、7.6 cm望遠鏡とCCDカメラによる撮像によって発見されたもので
す。詳細は IAUC No.8284 や Star Formation Newsletter No.136 (2004年2月9日)
に報告されています。

 天体の位置は 05h 46m 14s, -00o 05'.8 (J2000.0) で、可視光での星雲の光度
は 15-16等と報告されています。この位置には IRAS 05436-0007 という赤外線源
が知られていましたが、これまでの可視光写真にはほとんど何も見えていません
でした。

 この現象は、この暗黒星雲(Lynds 1630)に隠されていた誕生まもない星(原始星)
がアウトバーストを起こし、その光が周囲の星雲を照らしているものと考えられ
ています。このような現象が可視光で観測されることは非常に珍しいものです。

 このような誕生まもない星のアウトバースト現象として、かつて「新星」と考
えられた FU Ori現象(1937年増光、現在も明るい状態が続いている)が有名です。
20世紀においても、可視光で FU Ori型の増光現象が記録されたものは数例
(V1057 Cyg, V1515 Cyg)しかなく、増光期間が捉えられなかったと思われるもの、
あるいは可視光は吸収されて見えず、赤外線だけで観測されたものを合わせても
確実なものは10個ほどしか知られていません。

 FU Ori型現象は、星がガス雲から形成される時に形成される降着円盤中で、中心
星に間欠的にガスが落ち込む現象で、星の成長に大きな役割を果たしていると考え
られています。このような間欠的なガスの降着の一つの原因として、矮新星のよう
な降着円盤の不安定が考えられていますが、低温の原始星円盤にどのようにして不
安定を起こすようなガスの加熱や電離が起きるのかなど、現在でも未知の部分の多
い天体現象です。伴星の重力によって円盤が乱されるためであると考える説もあり
ます。

 いずれにしても、FU Ori型現象は星の誕生過程のごく初期に起きるものと考えら
れており、ほとんどの期間をガスやちりの雲の中で過ごす原始星の成長過程で「目
にみえる初めての光」と言っても過言ではないでしょう。よく知られているおうし
座T型(T Tau型)の「生まれたばかりの星」は、この成長のずっと後で、星の周囲
の雲が次第に晴れて可視光でも星が見えるようになった段階に相当すると考えられ
ています。

 この新星雲を照らしている星が、FU Ori型の現象なのか、あるいはより小規模の
増光現象なのかの判定には今後の研究を待たなくてはなりませんが、「星の誕生を
知らせる最初の光」の可能性もあるこの星雲の変動をぜひ注視してみたいところで
す。天体写真などでもよく撮影される領域ですので、過去の写真や画像をチェック
してみるのも興味深いでしょう。この発見が7.6 cmという小型望遠鏡でなされたこ
とも驚きですが、CCDカメラやインターネットを用いた過去画像との照合など、
現代の技術を駆使したアマチュア天文学の記念すべき到達点として歴史に残るもの
になるでしょう。

 発見前後の比較画像はたとえば以下に示されています。

  http://www.balinka.com/m78c.jpg

2004年 2月11日
[2004年2月11日 18時49分14秒]

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