記事タイトル:太陽系最遠の天体 2003 VB12 の発見 

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お名前: 佐藤 裕久   
          国立天文台・天文ニュース(704)

         太陽系最遠の天体 2003 VB12 の発見

 われわれの太陽系は、宇宙を見る「目」が良くなるたびにどんどん広がって
きました。天体望遠鏡の発明によって天王星が見つかり、天体写真技術の発明
は冥王星の発見につながりました。そして20世紀後半には、電子の目であるCCD
素子の応用によって、より暗い天体を見ることができるようになり、1992年か
ら冥王星付近に存在する小天体が続々と見つかりました。これらはエッジワー
ス・カイパー・ベルト天体と呼ばれ、これまでに800個ほど発見されています。

 これらの天体の中には、遠日点、すなわち太陽から最も遠い点が、100天文単
位(1天文単位は地球と太陽との平均距離で1億5千万キロメートル)を越えるもの
もあります。そういう天体でも、近日点はすべて40〜50天文単位に収まってい
ました。つまり、大きな楕円軌道ではあるのですが、もともとベルト付近にあっ
た天体が海王星の影響で跳ね飛ばされて外側へ膨らんだ軌道をもつようになっ
たと思われています。

 しかしながら、このような単純な理論では説明できない新しい天体が発見さ
れました。昨年11月にアメリカ・パロマー山天文台の口径1.2メートル望遠鏡で
発見された 2003 VB12 という仮符号を持つ天体です。その後、この天体の軌道
を詳しく調べたところ、近日点はなんと76天文単位、遠日点が約1000天文単位、
周期は1万年という途方もなく、大きな軌道であることがわかったのです。

 この天体のサイズも特筆すべきものでした。正確な値は求められていません
が、推定直径は1000〜1600キロメートルほどです。これまで発見されているエッ
ジワース・カイパー・ベルトの天体の中では、冥王星の次に大きな天体である
と考えられます。発見者のグループでは、この天体にエスキモーの神話に登場
する海の神の名前、セドナ(Sedna)と命名提案をしたようです。

 ともかく、近日点がこれほど遠く、なおかつこれだけ大きな天体がどのよう
に形成されたのか、その起源は簡単には説明できそうにありません。長周期彗
星の故郷とされるオールトの雲の天体かというと、そうではありません。オー
ルトの雲は遠日点が数万天文単位とさらに遠いからです。さらにいえば、第十
惑星という話も一部で飛び交っていますが、この天体が惑星と呼ばれることは
ありません。一般に、太陽系の惑星は、その軌道空間を重力的に占有するよう
な天体ですから、今後、他にも同様の天体の発見が期待され、なおかつ地球の
数百分の一の質量しかないセドナを惑星と呼ぶことはないのです。

 いずれにしろ、今回のセドナの発見は、太陽系に大きな謎を増やしたことは
確かでしょう。われわれの太陽系が、21世紀もまだまだ外側へ拡がりそうな気
配になってきたわけです。

* エッジワース・カイパー・ベルト天体 (Edgeworth-Kuiper Belt Object)
  アイルランドの天文学者エッジワースとアメリカの天文学者カイパーが、
 太陽系の外縁部には氷を主成分とする小天体のベルトがあるだろうと予見し
 ていたことから、彼らの名前を命名したもの。この小天体群は惑星になりそ
 こねた小天体群であると思われ、現在では短周期彗星の故郷にもなっている。

参照:NASA Press Release No. 04-091(March 15, 2004).
   IAU Circular No. 8304(Mar. 15, 2004).
   渡部潤一、布施哲治、「太陽系の果てを探る 〜第十惑星は存在するのか〜」
                        (東京大学出版会、2004)

          2004年3月16日                        国立天文台・広報普及室
[2004年3月16日 22時13分12秒]

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