国立天文台・天文ニュース (569)
見えるか、彗星探査機の旅立ち
アメリカ航空宇宙局(NASA)は、7月3日にいくつかの彗星を探査するためにコ
ントアー(CONTOUR:Comet Nucleus Tour)という探査機を打ち上げました。この
探査機は現在は地球を1.75日の周期で周回していますが、8月15日にはこの地球
周回軌道を離れ、惑星間空間へと旅立ち、2003年11月12日にはエンケ彗星(2P/
Encke)に、2006年6月19日にはシュワスマン・ワハマン第3彗星(73P/Schwassmann-
Wachmann 3)に近づき、詳細な観測を行う予定です。いまのところ打ち上げも成
功し、トラブルも伝えられていません。
ところで、こういった探査機が軌道を変えるときには、燃料に一時的に点火
するため、大量のガスを放出し、地球からも雲のように見えることがあります。
よく静止軌道上へ打ち上げる人工衛星で、地球から最も遠く離れた点(アポジー;
Apogee)でこういった軌道制御をするのですが、そのための噴射装置を「アポジ
モーター(Apogee Motor)」と呼ぶことがあり、しばしばこの噴射は雲のように
広がってしばらく肉眼でも見えることがあります。
コントアー探査機の最新情報によると、軌道制御を行うための点火が7月27日
と8月1日、3日(いづれも日本時間)の3回にわたって行われる予定です。このう
ち最後の3日の点火を除けば、どちらも共に日本では夜となっており、原理的に
は観測可能な場所にあります。27日にはペガスス座の西側、東から東南東の方
角に、1日はうお座とペガスス座の境界あたりで、ちょうど真南の方角となりま
す。
探査機自身は太陽光をうまく反射しても、その明るさはせいぜい10〜12等級
程度で、見ることが難しいのですが、軌道制御の点火後には、噴射燃料が雲の
ように広がってみれる可能性があります。最後の3日の点火は13秒ですが、日本
で見られるものはどちらも時間にして1分近い長い噴射となりますので、もしか
すると肉眼で見える可能性もありますが、はっきりとしたことはわかりません。
また噴射のタイミングも変更される可能性もあります。コントアー探査機のチー
ムメンバーであるダナム(David Dunham)は、日本の優秀なアマチュア天文家の
方々に、高感度ビデオなどによって、この噴射を観測して欲しいと呼びかけて
います。
日本の主な都市から見える軌道制御点火の位置 (2000年分点準拠)は以下の通
り。
7月27日 21時20分28.9秒(JST)を中心に58.5秒間
観測地 赤経 赤緯 距離
時 分 度 分 km
札幌 21 52.4 +20 10 47946
仙台 21 54.1 +20 41 47966
東京 21 55.1 +20 56 48056
京都 21 56.1 +20 52 48370
鹿児島 21 57.9 +21 3 48845
8月 1日02時13分09.9秒(JST)を中心に63.2秒間
観測地 赤経 赤緯 距離
時 分 度 分 km
札幌 23 38.3 +07 48 109635
仙台 23 38.4 +08 02 109353
東京 23 38.7 +08 10 109225
京都 23 39.4 +08 12 109254
鹿児島 23 40.6 +08 22 109220
参照:コントアー探査機ホームページ http://www.contour2002.org/
2002年7月26日 国立天文台・広報普及室
注:このニュースは国立天文台の相馬充氏よりいただいた資料をもとに作成し
たものです。
[2002年7月26日 22時50分49秒]