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芸西天文台通信<2009年2月2日号>


C/2007 N3 (Lulin), 眼視による光度測定について

 C/2007 N3 (Lulin)が明け方の空で接近してきました。現在7〜8等級で、最初の予報ほど明るくなっていないようです。しかしコマは中心核の確りした美しいグリーンで、久々に明るい彗星に接した感じです。

C/2007 N3 (Lulin)
2009年2月2日 4時34分(J.S.T)から16分露出
70cm F7反射, ISO800ネガカラーフィルム
撮影: 関勉


 写真では近くの輝星とほぼ同じ光度の8.0等に見えます。眼視で観測する時には、点光源とモーローとした彗星を比較するのですから、やりにくく、故意にテレスコープの焦点をぼかした、焦点内外像で、しかも面積を同じにして比較するのが良いとされています。しかしこの方法では、ぼかすことによって、彗星の光輝が失われていくことになりますから、彗星を暗く見積もると言う意見が多いようです。ところが1970年代に東京で、「彗星会議」があったとき、冨田弘一郎氏は、「それは間違いで、彗星を明るく見積もるのではないですか」と言われました。つまり焦点をぼかしていくことによって、モーローとした彗星が明るさを失って行く割合より、恒星の方が極端に薄くなっていく、と言う考えです。そして同じ国立天文台の古川麒一郎氏は、焦点の内像外像によっても違う、と言われました。
 それは確かに一考を要する大事な問題で、私も実はこのことを実験で確かめたのですが、今回の写真の彗星で、テレスコープのピントをぼかして比較した結果、彗星が近くの恒星より約1等明るい7等星となりました。どちらが正しいかわかりませんが、確かにあまりピントをぼかすことは良くないかも知れません。昔から私が提案している観測法ですが、すこしやりにくいのですが、ピントを極端にぼかさずに、恒星の像が少し面積体になる程度のぼかし方で比較するのが無難なようです。後は彗星より明るい星と暗い星を選んで比例法で、光度を決定するか、或いは光階法によって、変光星観測の手順で目測します。この「光階法」は私の好んで行っている方法で、私の場合の”1光階”は0.1等です。
 次に双眼鏡が使える程度の、明るい彗星の場合ですが、この方はイメージをぼかす割合が小さいので、もっと正確な結果が得られると思います。私が時々行っている方法は、広い視野の中から彗星にもっとも近いと思ういくつかの恒星を選んで(できれば5個以上。多い程よい)平均する方法です。これは光度差の大きい恒星から下手な比例法を実行するより正確です。
 それと、恒星と比較して観測するにしても、夜空の暗いよい場所で行うのと、明るい都会の近辺で行うのでは、大きな差がでます。都会地では彗星のような朦朧とした天体を暗く見積もるのです。私が1965年にある彗星で実験したところ、優に1等級の差が出ました。
 そのようなことで、彗星の光度の物理的な研究(彗星の日心距離と明るさの関係)のためには、同じ人が、同じ場所と同じ望遠鏡を使って、得た結果のみから研究するのが面白いのではないか、と思います。よく実験式から彗星の標準光度とlog Rの係数を求める方法が使われていますが、彗星は短期間に異常な光度変化を示すこともあり、広い範囲で資料を得ることが大切です。このために、昔から放物線に近い新彗星の場合は、太陽からの距離の4乗に逆比例するとして、log Rの係数を”10”に、また度々回帰する周期彗星は”15”として光度式を計算し、これが光度の一般式として大過なく通用してきました。私は個人的には、手を煩わした実験式より、この方が好きで良く使っています。
 彗星の光度の問題は、今後に多くの研究課題があるようです。
Copyright (C) 2009 Tsutomu Seki.